居酒屋で一人親子丼

1月末のとある雨の日の日記。


今日はうちの兄も姉もいないし、帰っても飯が無いということで家から最寄り駅近くにある串焼きを専門とする居酒屋に行った。雨が強く降っていた夜10時頃のことだった。


明日は朝5時起きだ。酒は飲めんと思って焼き鳥屋は諦めたものの、やはり鳥が僕の頭の上をピヨピヨと飛び回っており、中華もなーって思ってたところで見つけたのがその店だった。


近所とはいえ、というより近所だからこそ、その場所には行ってなかったし、その店のことも知らなかった。外のメニューを見て、明らかに居酒屋であることがわかったが、お食事という箇所に親子丼があって、それに惹かれた。雨に打ち付けられてビニール傘が壊れるんじゃないかと心配だったし、さっさとそこと決めて入った。


奥には大学生たちがいるようだ。喧騒が聞こえる。僕は一人カウンターに着くと「親子丼」とぶっきらぼうに言った。近所の居酒屋で一人、カウンターで親子丼か。思わず笑みがこぼれそうになるのを抑える。目の前で熱心に大学生たちのために料理を作る主人。口元に手をやりため息ひとつと目を下にやるとカウンターに灰皿がポツリとあるものだから、ちょっとタバコでもと一瞬考えた。しかし生憎そのとき手元に無かったし、外を見ると雨がより一層強くなっていたから、またため息。


そういえば最寄り駅の店って、なんであまり行かないんだろう。うまいかどうかは食べてみないとわからないし、地代を考えりゃ都会に出て食うよりも安上がりだろう。酒だって飲んだら飲んだで家まですぐだし、酔って電車に乗る必要も無い。家路が酔い覚ましになる。それになんつうか、他の人と飯食ってると味が二の次になってしまうし、気ぃ使いながら飯を食うだなんて、どうにも僕には不可解でならん。もちろん楽しいとは思うんだけどな。それは話が楽しいのであって、食事が楽しいのではないんだよな。食事って一日三回もするもので、生きてる限りずっと付きまとうものなんだからさ、食事を楽しんでみても良いと思うんだわ。一人で贅沢な飯を食うって、たまにはありなんじゃないかな?そんでたまには地元にもお金を落としてやってやればいいのに。おいしいお店探しは、まず自分の家の近くからでもいいんじゃない?


そんなことを考えている間に親子丼が出来上がる。卵がとろっとして鳥がジューシー。こんなことを言うとテレビのグルメ番組みたいだが、本当にそうなんだから仕方ない。ご飯と卵が絡み合って絶妙のつゆが食欲をそそり鳥はさすが串焼き屋なだけあって美味いしそれもたくさん入ってるからもうたまらん。澄まし汁は熱くて、雨の日の冷えた体を芯から温める。パッと見少ないかと思ったが、そんなことは無い。腹八分目ぐらいでちょうど良い。それに美味かったものだから満足感が違う。満腹感と満足感は似ているのかもしれない。


ご飯の一粒も残さず食べ終わり「お勘定」と一声。「ごっそさんです」と言いながらレジにいって1000円札を渡し220円返ってくる。レジの女の子にも「ごちそうさま」と言い、大学生の喧騒に背を向ける。


外に出ると大雨。傘を取り、肩をすぼめて家路を歩いて行った。信号を待つ私の後ろではカンカンとヒステリックに遮断機が下りている。