後輩との会話

俺最近は全然本なんて読めねえんだよな。エミール読もうとすんだけど読んでるときに失敗した面接のやりとり思い出しちまって頭抱えちゃうんだよ。なんか集中できねえんだ。だけどよ、俺ちょっとぐらいは大学入って哲学書や宗教書読んだよ。これ面接で言っちゃったんだけどよ。まあ聖書や歎異抄とかな。コーランを知っていますかみたいな読みやすいものなんかも読んださ。そんなかでも一番良かったのはやっぱ米長邦雄だったな。あの人の考えってのは素晴しいな。ユーモアと謙虚さが大事っつってんだよ。謙虚っつってもあれよ、断ることが謙虚じゃないのよ。謙虚ってのは感謝ってことなんだな。例えばこれをやってくれと頼まれたときに、私で良ければ一生懸命やらせていただきます、といった心持が無いといかんってことなんだな。ああ、聖書って言ったけど、これ、聖書っていうとみんな退いちゃうのな。まあ俺らはオウム世代だからな。宗教はなんか敬遠してるしな。でも今後日本が世界とコミュニケーション取っていくなら聖書ぐらいは常識っつうか、一般教養として知っておくべきだよ。内容も詩的で美しいし読む価値はある。ただ俺的に歎異抄がダメだったわ。本文と浄土宗の人が書いた現代語訳と解説のあるやさしいやつ読んだんだけどよ、人間大事にしてない気がするんだもん。あれは信じられねえ。あれだったらどうして私だけが苦しむのかっつうクシュナーの本読んだほうがいいな。友人が死なないのが奇跡じゃなくて、友人が死んだときに人と人が助け合えればそれが奇跡なんだ。不幸を乗り越える力こそが尊いって言ってんだ。あれは本当に素晴しいよ。クシュナーっつうのはユダヤのラビな。ラビって知ってるか?まあ教師みたいなもんだな。日本の教師とじゃ大違いだけど。浄土宗ねえ。法然のおやじさんは俺素晴しいと思うんだよ。いや、俺全然歴史知らねえ無勉強人間なんだけどさ、まんが日本の歴史に書いてあったのよ。なんか法然の父ちゃんって殺されたんだって。そんで死にそうになってる父ちゃんの前で法然が「必ず仇を討ちます」というんよ。でもそこで父ちゃんが「お前がわしの仇を討ったら、今度は相手の子がお前を殺そうとするだろう。それでは人間の憎しみはいつまでも消えない。それより相手を許してやれ、それが平和というものだ」って感じのことをいうんですよ。これは本当に素晴しいと思うんだな。小学生のときに読んだんだけど、この言葉、まあこんな感じの言葉、なんだけど、忘れられないね。ウルトラマンエースの名言に近いものがあるよな。「やさしさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。例えその想いが何百回裏切られようと・・・それが私の最後の願いだ」ってやつか。あれは素晴しいな。あとはそうだな、やっぱラッセル3部作のうち教育論と幸福論は読んでおくといいな。結婚論は、まあもっと良いもん他にありそうな気がするわ。とにかく教育論と幸福論、これはオススメだ。今、影響受けてるものか、今一番影響を受けているのはプラウト主義経済だな。いろいろ哲学書や宗教書の中には具体的にどうすべきって指針を書いてるのもたくさんあるよ。エミールなんて全然読めてないけどそういうことが書いてあって関心するとこ多いしな。でも、経済的なシステム的な部分でね、どういった社会構造であればみんなが幸せになれるのかって具体的に言ってるのは俺、この考えだと思うんだよ。消費税を上げるだとかまあいろいろあるけどさ、それによって現在の景気が良くなって、経済が安定すればみんな幸せ?笑わせるぜって感じだよ。経済が良くなったら人が幸せになるんじゃねえんだよっ。ここで引用するのは間違っているのはわかってるけどよ、ちょっと話ズレるんだけど思い出したから言うんだけどよ、幸田露伴の太郎坊って話があんだよ。それの出だしで主人公が家に帰ってきて奥さんの前で一杯やるんだよ。そこでこういうんだよ。「その日に自分が為(や)るだけの務めをしてしまってから、適宜(いいほど)の労働(ほねおり)をして、湯に浴(はい)って、それから晩酌に一盃(いっぱい)飲(や)ると、同じ酒でも味が異(ちが)うようだ。これを思うと労働ぐらい人を幸福にするものは無いかも知れないナ。ハハハハハ。」全然関連性無いな。うん。無い。無いけど、俺が思う幸せってのはこれよ。つまりまあこれはラッセルの幸福論とかぶっちまうけどよ。今の先行きが見えないっていうか、目指しているものがわからない状態で人間が幸せだとは思えないんだよな。不安なんだよ。不安で不安でよ。あれさ、芥川が言ったじゃん。ぼんやりとした不安って。もちろん人は競争しないといけないんだよ。競争はするし、それを抑え付けることは許されない。だけど、今の経済体制じゃいつになっても不安が消えない。金持ちさえも不安に犯されている。この不安ってやつは子供はもともと持っていないものなんだな。だけど親や社会が不安を教えて、教えられたから俺らは不安なんだよな。親自身が不安だから子供も不安になる。どこかで人はみんな変わらないといけないんだよ。どこかでケリつけて、不安の無い子供たちが未来を作っていけるように俺らがなんとかしねえといけねえんだ。年寄りはやっぱ知恵があるし、近頃は特に面接なんかで見透かされると、ああ敵わないという気持ちにはなるけど、でも、でもだ。でもやっぱり若者こそが世の中を変えていかなきゃならんのですよ。世の中を変えるのはどんな時代でもどんな場所でも若者なのよ。あのねえ、俺は頭が悪いけど、おめえ頭いいからよ。おめえは国動かせるんだから、だから変えろよ。俺もどっかでなんか変えるからよ。俺に何ができるか、何をやらせてもらえるのかわかんねえけど。もしかしたら何もできずただ野垂れ死ぬだけかもしれないけど、でも頑張ろうとはしてみるから。俺のできる範囲でな。お前もな、目の前のことだよ、目の前のことを淡々と、でもしっかりとな、こなしていけよ。ちゃんと先の夢を持ってそうしてれば、いつかたどり着いてんだ。たどり着いたらいつも雨降りって吉田拓郎の歌があるぐらいだから、雨降ってるかもしれねえけど、どしゃ降りの夢かもしれねえけどな。はぁーあ。なんかよお。人生ってやつは大変だよ。